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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)298号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

一 金属シートの配置について

本願発明の昭和五五年一一月二八日付手続補正書による補正後の明細書の記載及び図面(成立に争いのない甲第二号証の二、三及び甲第四号証)によれば、本願発明は、電子増倍器の入射側端面から生ずる二次電子による分解能の低下を防止することを一つの目的とするものであり、その目的達成のためには、光陰極と電子増倍器の間に装置されて該二次電子を捕獲・吸収する金属シートは、光陰極に面する側の電子増倍器(微小チヤンネルプレート)の表面にとりつけられていることが望ましい(第一八頁一一行目ないし一四行目)が、この二次電子捕獲・吸収の効果は、このように金属シートを電子増倍器の入射側端面に密接配置させた場合のみに生ずるものでない。すなわち、本願発明における光陰極から加速されてくる入射電子は四〇〇電子ボルトないし一〇〇〇電子ボルト(第二七頁一九行目ないし第二八頁三行目)であるのに対し、電子増倍器の入射側端面から生ずる散乱二次電子は、三電子ボルトないし五電子ボルト程度の低い運動エネルギーしか有しない(第三四頁一九行目ないし第三五頁二行目)が、二次電子の性質上、入射側端面からある程度離れた空間に向つて不規則な方向に飛散し、かつ、その散乱距離は、装置の構成その他の条件によつて異なることが明らかであるから、入射側端面と光陰極との間の空間にある程度の範囲にわたつて分布しているものと認められる。そうであれば、たとえ金属シートが密接配置されてなく、電子増倍器の入射側端面からある程度離れた位置に配置されていたとしても、程度の差はあれ、散乱二次電子を捕獲・吸収し、分解能を向上することができるというべきである。

したがつて、金属シートが電子増倍器の入射側端面に密接配置されている場合のみ、散乱二次電子捕獲・吸収の効果があるとはいえない。

被告は、本願発明の明細書に記載された特許請求の範囲によれば、金属シートを光陰極と電子増倍器との間にさえ存在させれば足りることになるが、金属シートを光陰極の表面に密接した位置に配置したのでは、分解能の低下を防止できない旨主張する。しかし、審決は、「金属シートが電子増倍器の入射側端面に密接配置されていること」を、本願発明の目的を達成するために欠くことができない事項と認定しているのであつて、密接配置以外のすべての離間配置を排除している趣旨と解するほかないから、離間配置によつてもその目的を達成することができる場合が存するものと認められる以上、光陰極の表面に密接配置した場合にその目的を達成できないからといつて、審決の判断が正当ということにはならない。

二 離間配置された金属シートの支持について

次に、金属シートを電子増倍器の入射側端面より離間し光陰極との間に配置する場合には、金属シートを支持する措置を講ずる必要があるが、本願発明の明細書には、「第二の方法は、陽極酸化のような従来の手段によつてつくられた酸化アルミニウムの自分で自分を支えられる厚い膜を用い、酸化アルミニウム膜の正面側面上にアルミニウムを蒸気附着させる方法である。」(第三〇頁一五行目ないし一九行目)と記載され、自分で自分を支える厚い酸化アルミニウム膜にアルミニウム層を附着させることが示されている。そして、これらの取付け位置としては、電子増倍器の入射側端面に取付けるのみでなく、「光陰極と電子増倍器の間に装着された金属シート」(第一七頁一五、一六行目)、「望むべくは、金属シートは光陰極に面する側の微小チヤンネルプレートの表面にとりつけられているのがよく」(第一八頁一一行目ないし一四行目)との記載があり、これらの記載を総合すれば、本願発明の明細書には、それ自身自立性のある酸化アルミニウムを用いて、アルミニウム層を空間に支持することが充分に示唆されているものと認められる。

また、成立に争いのない甲第六号証の一ないし三によれば、本件刊行物は、本願発明の出願前である一九六四年に刊行され国立国会図書館に受入れられたSEC(二次電子導電)の構成に関する論文であるが、その第一〇〇八頁には、SEC管内のターゲツトについて、厚さ約七〇〇オングストロームの酸化アルミニウム支持層に、厚さ五〇〇オングストロームのアルミニウム層を設け、これを金属リングに取付けて空間に自立させた技術が示されており、この技術を利用し、酸化アルミニウム支持層及びアルミニウム層の厚さ、印加電圧等をしかるべく選定してこの酸化アルミニウム層を光陰極と電子増倍器との間に配置すれば、一次電子に対する透過と分解能向上とのバランスをとつて、本願発明における金属シートであるアルミニウム層を空間に自立させることが充分に可能であることが認められる。

したがつて、電子増倍器から離れた位置では、金属シートを支持する手段がないことを理由に、金属シートを離間配置したものが完成した発明として示されていないとする被告の主張は採用できない。

3 以上に検討したとおり、「金属シートが電子増倍器の入射側端面に密接配置されている」ことは、本願発明における特許請求の範囲に記載すべき本願発明の目的達成に欠くことができない構成要件とは認められないから、本願発明の明細書にこれを記載しなかつた不備があるとした審決の判断は誤りであり、この不備を理由に本願発明の出願を拒絶すべきものとした審決は違法であるから、取消されるべきである。

4 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるので、これを認容する。

〔編注その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四七年三月一五日、一九七一年三月一五日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、名称を「光増幅装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭四七―二五八三〇号)したが、昭和五一年八月三日拒絶査定を受けたので、同年一二月一四日、審判を請求(昭和五一年審判第一三三四一号)し、その間昭和五五年一一月二八日付手続補正書により特許請求の範囲を補正したが、昭和五六年七月一三日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされ、その謄本は同年八月一二日原告に送達された。

2 本願発明の要旨

(一) 光陰極と、電子の入射で発光可能なスクリーンを構成する金属被覆標的電極と、該光陰極と該スクリーンとの間に配置された電子増倍器と、光電子が通過できるほど十分に薄い導電性材料膜とを含む光増幅装置において、該導電性材料膜で第一及び第二の別個の膜シート構成し、第一の膜シートは前記光陰極と前記電子増倍器との間に配置され、第二の膜シートは前記電子増倍器と前記スクリーンとの間に配置され前記スクリーンを構成する標的電極の上の金属被覆を形成することを特徴とする光増幅装置。

(二) 前記(一)記載の光増幅装置において、該装置に静電界を印加する手段を設け、該静電界によつて該装置の中を前記光陰極から前記電子増倍器へ及び前記電子増倍器から前記標的電極へ電子が加速され、前記電子増倍器と標的電極との間の静電界は前記光陰極と電子増倍器との間の静電界より三倍ないし二〇倍の強さがあることを特徴とする光増幅装置。

(別紙図面参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

<省略>

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